失神で救急搬送された60代・男性
少し怖い「Brugada症候群」のお話
こんにちは,YMC medicom です.COVID19 + GW2021 終盤戦,いかがお過ごしでしょうか?
巣ごもり時間のスキマ時間にでも心臓のお勉強をしてみてはいかがでしょうか.
これは私がまだ循環器内科レジデントの頃に主治医を務めた症例です.
症例は60代・男性で失神のため救急搬送されました.夕食後の22時頃,テレビ鑑賞中に突然意識を失ったとのことでした.目撃した妻の話によると,失神した際に大きないびきと痙攣のような体を突っ張る動きがあったそうです.5分後に妻の呼びかけによってようやく目が覚め,救急隊到着時は意識は回復していました.そのまま病院に救急搬送され,原因不明の失神の精査目的で入院となりました.
救急外来での検査では,脳の異常は認めず,その後の脳波でも明らかな異常所見は認めませんでした.
しかし,入院時に施行された心電図で前胸部誘導V1,V2で右脚ブロックを伴うST上昇を認め,Brugada症候群が疑われたため,我らが循環器内科に紹介となりました.
「Brugada症候群(ブルガダ症候群)」?? なにそれ??
我々は健康診断の心電図検査を読影しているとたまに見かけますが,一般の方々が健診の所見欄に「Brugada型心電図波形」と記載されても,なんのことだかよくわかりませんよね.
具体的にはこのような心電図波形です.
Brugada症候群の波形タイプには,大きく分けて「coved型」と「saddle-back型」があります.
我々が健診でよく見かけるのは 「saddle-back型」の方で,この波形パターンで症状が特にない場合の心電図判定は「要観察」とし,特に精査は不要としています.
問題なのは 「coved型」の方で,なんらかの症状を有する場合です.例えば,これまでの失神歴の有無や,夜間に突然唸り声を上げて呼吸困難になったことがあるか,などです.
もし,そのような症状に心当たりがある方で,健診で「Brugada型心電図波形」と判定された方は,要注意です.
なにが怖いかと言うと,突然死してしまう可能性がある病気だからなんです.これは本当に恐ろしいですよね.いわゆるポックリ病の一種のようなものです.
突然死の原因として,病気の背景に,心臓の電気現象の異常があるといわれてます.心臓内の電気の流れが不安定のため,突然,「心室細動」という致死的な不整脈を引き起こすと言われています.
特に,血縁関係に同じように「Brugada型心電図波形」と診断された人がいる,もくしは,若くして突然死した家族がいるという人はさらに要注意です.
それはもはや「Brugada型心電図波形」ではなく,「Brugada症候群」という病気と診断される可能性が濃厚になるからです.
話を60代・男性の症例に戻します.この症例も実は,父親が40歳代前半に心疾患で突然死しており,姉が3人いますが,その内の一人が30歳代で突然死しているそうなのです.
この患者さんは,特徴的なBrugada型心電図波形(coved型)に加えて,今回の失神,さらにこのような家族歴から「Brugada症候群」と確定診断しました.
次に同様の発作があった場合,本当に亡くなってしまうかもしれません.年齢もまだ60代とお若く,それは絶対避けなければならないことでした.
それを予防するには,基本的には,植込み型除細動器(ICD)しかありません.ICDとは体に植え込む電気ショックの機械のようなものです.不整脈が起こった時に,医療ドラマで見るような電気ショックが体内で作動する役割を担ってます.
私が当時主治医でしたが,植込み型除細動器(ICD)の適応あると判断し,患者さんとそのご家族と相談の上,ICD植え込み手術を行いました.
その後,患者さんは失神発作を繰り返すことなく,安心して日常生活を送っているそうです.
今回は少し怖い「Brugada症候群」の具体的な症例を提示しました.
心電図所見で,これって「Brugada型心電図波形」?? ただの「右脚ブロック」?? など,見分けがつかないこともたまにあります.
そのような際には是非,YMC medicom にご相談ください.
これまでのわれわれの臨床経験なども総動員してお役に立てられれば幸いです.